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2014年度 [ 地域志向 ] 神奈川県絶滅危惧種シウリザクラの衰退調査と保全対策の検討

神奈川県絶滅危惧種シウリザクラの衰退調査と保全対策の検討

取組代表者

谷 晋 【総合教育センター】
(湘南校舎)

共同取組者

竹中万紀子(生物学部生物学科)、伴野英雄(桜美林大学自然科学系)

取組の概要

シウリザクラ Padus ssiori は、丹沢山と蛭ヶ岳の標高1000m以上の森林内に数十から百数十個体の小集団で局所的に生育するサクラの一種である。これまで確認された総個体数は約400と少なく、神奈川県の絶滅危惧種ⅠB(近い将来に絶滅の可能性が高い種)に指定されている。このシウリザクラの葉を摂食するサクラスガYponomeuta evonymella 幼虫の著しい食害が1996年以降頻発し(写真)、枯死するシウリザクラが急増している。本州中部では、シウリザクラがサクラスガ幼虫の唯一の食餌植物であることから、サクラスガもまた絶滅が危惧される種である。このため両種の共存を図る保全対策が前提となる。本研究ではシウリザクラとサクラスガの生育状況と食害発生状況のモニタリング調査を行う。シウリザクラ全個体数の3/4が生育する丹沢山堂平を中心にGPSによる分布や胸高直径の測定、樹勢の衰退状況、サクラスガの発生量やシウリザクラが受けた被害程度のデータを収集する。蛭ヶ岳周辺の生育地点でもシウリザクラの生育や衰退状況を記録する。サクラスガ終齢幼虫を採集し、個体群密度調節に働く寄生性昆虫の種や寄生率を調べる。シウリザクラは北海道の平野部に広く分布するため、札幌校舎と連携し、札幌市周辺のシウリザクラの分布やサクラスガ発生量、寄生性昆虫を調べ、丹沢と比較検討する。また、堂平ではブナ林の植生をシカの食害から守るために、県が植生保護柵を設置している。設置年代の異なる柵内でのシウリザクラ根萌芽の成長の違いから、保全対策として根萌芽による世代更新の可能性を検証する。

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取組の成果

・モニタリング調査  シウリザクラの枯死は昨年よりさらに進み、ここ10年程度で丹沢山地の1/4以上の個体が枯死したことがわかった。特に蛭ヶ岳北の地蔵平では6割近くが枯死し、樹勢が衰えて枯死寸前の個体も多く見られ、個体群の絶滅も危惧される状態であった。丹沢山堂平では6月にサクラスガによる深刻な食害が発生した。特に4地点のうち2地点では、半数以上のシウリザクラが全失葉した。これらの幼虫の巣網密度は、札幌や、上高地、日光などに比べ数十倍は高かった。反面、完全な食い尽しによる幼虫の大規模な餓死は起きなかったため、2015年も深刻な被害が継続して発生する可能性が高い。寄生性昆虫として、丹沢山ではヤドリバエ科とヒメバチ科のそれぞれ1種、札幌でもヒメバチ科の2種が確認できた。いずれも摂食中の幼虫を殺さない「飼い殺し型」と思われ、その年のサクラスガ幼虫の食害を減少させる効果は期待できない寄生者である。また、寄生率も40%未満と高くなかった。

・保全対策の検討  丹沢のシウリザクラは根萌芽により形成されたクローン集団で、種子による繁殖は確認されていない。根萌芽による世代更新もシカの摂食により妨げられてきた。植生保護柵内ではシウリザクラの根萌芽が10年ほどで3m以上に成長でき、世代更新も十分可能であることが今回の調査でわかった。このため、緊急の保全対策として、国定公園の管理者である神奈川県に対して、より広範囲での柵設置と維持管理の徹底を要請していく。サクラスガは数年間の漸進的な個体群密度増加で大量発生レベルに到達し、食物不足による大量餓死で終息するパターンをここ20年間繰り返してきた。捕食や寄生など個体群密度の調節する要因が十分に機能していないと考えられ、ブナを食害するブナハバチと同様に、大気汚染やシカの食害で植生が退行したことが影響している可能性がある。サクラスガの大量発生を抑制して両種の共存を図るために、網巣の人為的除去や県がブナハバチ用に研究している防除薬剤の幹注入などいくつかの方法が考えられるが、環境への影響を考慮する必要があり、それらの適用は今後神奈川県と検討していく。

  • 取組テーマ:環境保全
  • 対象者  :指定なし
  • 取組タイプ:研究
  • 連携自治体:伊勢原市