取組の概要
生命科学分野ではiPS細胞の発見など大きなブレイクスルーがあり、医学研究に対する一般市民の関心が高まっている。東海大学医学部では、附属病院における医療行為を通じて地域社会に多大な貢献をしている。しかし、医学部で行われている基礎医学を中心とした研究の内容や活動が、地域において広く十分に理解されている状況ではない。そこで本課題では、伊勢原キャンパスに隣接する伊勢原市立子ども科学館と連携し、地域の小学生を対象とした生命科学実習を行うとともに、医学部の研究室の一部を開放して研究の現場を紹介する。このような取組を通じて住民との交流を図り、長期的な地域連携へ発展させることを目的とした。そこで、伊勢原市立子ども科学館における夏休みの科学実験教室の一環として、地域の小学校高学年生から中学校生を対象とし、本学医学部の教員、職員、医学部生、大学院生がインストラクターとなって「いろいろなミュータントの観察・研究室を見学してみよう」と題する実習と見学会を行った。子ども科学館での生命科学実習では、「DNAを見てみよう」、「骨のミュータント」、「線虫のミュータント」の3つのパートに分けて実習を行った。さらに、参加者とその父兄を伊勢原キャンパスに招待し、医学部における研究のプレゼンテーションと研究室見学ツアーを行った。参加者とその父兄との交流会を開催し、修了証授与やアンケート調査を行った。
取組の成果
地域の小学校高学年生と中学校生、計13名を対象として伊勢原市立子ども科学館で行われた生命科学実習では、参加者自身の口腔内の細胞よりゲノムDNAを抽出する実験を行った。また、研究で用いられる骨格異常のミュータントマウスの骨格標本を実際に顕微鏡で観察したり、生きている線虫の性差や形態異常や行動異常のミュータントの観察も行った。これらの実習に対して、参加者の小中学生より実験操作や観察が楽しかったり難しかったという感想や生物のDNAや細胞にかんする驚きや好奇心の声が寄せられた。
伊勢原キャンパスで行われた研究室ツアーでは、医学部の8つの研究室と生命科学統合支援センターが参加してそれぞれの研究内容や活動の説明後に研究室の見学ツアーが行われた。このツアーでは、小中学生からは研究内容に対する疑問や機器や器具に対する驚きの声が寄せられた。また、研究の面白さやスタッフに対する親しみから、入学を希望したいとの声もあった。また、父兄より臨床業務以外にも研究を活発に行っていることをはじめて知ったという声や自分自身が楽しく興味深かったという声も多く寄せられた。
生命科学実習と研究室見学では、医学部1年生と大学院生が補助やガイドをしたが、彼らに対するアンケート調査より、子供達の態度や姿勢によって自分自身の勉強への意欲が高まったという声が多く寄せられた。また、知識やプレゼンテーション、コミュニケーション力などに課題を感じたり、研究内容や実験機器に興味を持ったという声も聞かれた。
本取組では、次世代を担う子どもたちに医学を含めた生命科学への理解とあこがれを持たせ、将来、東海大学に入学して医師や科学者となって活躍する人材を輩出することを想定していた。しかし実際に行ってみると、参加した子どもたちだけでなく、子どもたちに接したほとんどの人が刺激を受けて、自分自身の興味や好奇心や課題などを考えるきっかけとなったことがわかった。このような全体の雰囲気は、地域の情報紙にも好意的に取り上げられて紹介され、我々の想定を超えた効果を感じている。本取組が、長期的に理系教育の裾野を広げる活動へと育っていくことを願っている。