取組の概要
富士山世界遺産登録後の観光交流人口の急激な増加により、三保松原の自然環境保全と 観光振興のバランスに基づく景観改善の課題解決は急務である。そこで、若年層が考える自然環境や歴史文化の保全に責任を持つ「持続的な観光」を主軸に据え、若年層を主体とするパブリックワークプロジェクトを地方自治体(静岡県・静岡市)、地元住民、観光業者、観光客の協働参画によりパブリックアチーブメント教育として展開した。
本取組の目的は、地域の若年層が主体となって地域の社会問題(地域の環境保全と観光振興)に対して意思決定を行うパブリックアチーブメント教育を展開することを通じ、若年層の地域観光振興に対する意思決定能力を育成することにある。この目的を達成するために、本取組では、大学生が三保松原の現状調査から持続的な観光・地域振興を実現するための課題として「三保松原の単発観光や観光客の急激な増加による交通渋滞・駐車場等の問題」を導出し,これらの課題解決に向けて取組むべき4つのプロジェクトを設定した。 その4つのプロジェクトは次のとおりである。
1)東海大学付属小学校におけるパブリックアチーブメント教育の実践
2)新産業観光拠点 中部電力㈱清水メガソーラ万代塀デザイン制作
3)清水港湾緑地整備「折戸潮彩公園」実現に向けた学生達の挑戦
4)三保周遊観光「三保チャリマップ制作」による地域振興
これらプロジェクトの成果として、パブリックワークの知識・スキルの修得にとどまらず、地域の社会問題(地域の環境保全と観光振興)に対して意思決定しながら課題解決していくというパブリックアチーブメント教育の一手法を開発することができた
取組の成果
最初に、付属小学校におけるパブリックアチーブメント教育の実践について述べたい。2014年9月から2015年3月期において、付属小学校3年生の社会科授業において「三保探検」と題するパブリックアチーブメント型教育を導入した授業を実践した。当該授業では、教職課程を履修する東海大学海洋学部の学生がコーチとなり、付属小学校の児童がインタビューやプレゼンテーションという政治リテラシーを用いて、観光振興という地域社会特有の課題に対する解決方法を学んだ。当該授業においては、付属小学校の社会科教員は「サイトコーディネーター」として、コーチである大学生に対して助言し,児童と大学生とが協同的関係を構築できるよう支援した。また、大学教員は、コーチコーディネーターとして、毎回の授業終了後にコーチの学生と反省会を実施し、次回の授業の展開について意見交換を行った。清水校舎の教職課程としては、これまでボランティアとして付属学校の授業に関わってきたが、今回パブリックアチーブメント型教育を導入したことにより、一つの授業を小学校の児童と大学生が「共創する」という社会貢献を目的とするサービスラーニングでは得られない方向性を示すことができた。
また、今回のパブリックアチーブメント型教育の導入は、単なる授業の共創にとどまらず、観光振興という三保地区特有の課題に対し、児童と大学生が影響を及ぼすというパブリックワークの手法を用いた点が新しい試みといえる。その結果として、児童も大学生も自ら学校が所在する三保地区についての地域アイデンティティを形成し、主体的に学ぶ姿勢を身に付けることができた。
次に、「新産業観光拠点の中部電力㈱清水メガソーラ万代塀デザイン制作」のプロジェクトにおいては、大学生有志が「再生可能エネルギーと私達の暮らし」をテーマに企画・運営し、翔洋中等部・高等部自然科学部の生徒達32名とともに,中部電力㈱により建設中の清水メガソーラ発電所を見学し、その後ワークショップを実施し闊達な意見交換を行った。そこで出された意見を取りまとめてデザインコンセプトを抽出し、デザイン案の制作を広く海洋学部生達に呼びかけ,実際に制作された。
また、「清水港湾折戸緑地整備」プロジェクトでは、静岡県清水港管理局の依頼を受け11000㎡の港湾緑地の整備に向け,折戸地区自治会、PTA,子供会、国・県・市の行政と共にワークショップ手法を取り入れて,基本設計、実施設計を展開した。計10回のワークショップ開催時には、学生が調査・資料作成、ファシリテータを務めた。当該公園は2015年11月頃整備完了する予定である。当該プロジェクトの成果として、参加学生は、2,3年生でありながら、計画・予算・整備の公共インフラ整備の行程とその後の維持管理を通し、授業外の自主的取組みの中で、専門性の学び、利害間参加者における合意形成、アドボカシー・プランニングを実践することができた。しかも、地域振興における学生達の役割・意義が再認識され、信頼を深める結果となった。当該プロジェクトは、学生達にとってリアリティの高い実践現場になり、今後も継続した取組みとなった。
最後に、「三保チャリマップ」の制作を静岡市の依頼により行った。学生達は自らの調査により自転車による三保周遊マップ作製の要素となる地域資源(歴史・眺望・信仰・芸術、食事処等)を特定し、地元連合自治会,名勝保存会,三保ふるさと振興委員会NPO三保の松原・羽衣村,静岡観光コンベンション協会、生涯学習交流館館長,世界文化遺産「三保松原」,フューチャーセンター、翔洋高等部,海洋学部大学生の協働により,3回のワークショップを実施し、創意のもと三保チャリマップの制作にこぎつけた。この三保チャリマップが制作され、3月末に印刷・発刊される予定である。
今後は、2015年3月14日「2014年度To-Collabo in清水―パブリックアチーブメント教育を通じた三保の地域観光クリエーター育成-」を清水キャンパスで開催し、上記4プロジェクトの成果を発表する予定である。各プロジェクトの発表と静岡市教育長等を招聘した意見交換会を行うことにより,地域の解決が急務となっている課題に対し,若年層の政治参加と地域連携の効果的な結合により解決を図る東海大学型パブリックアチーブメント教育ついて考え、今後のシチズンシップ教育プログラムの開発とその実現方法を探る。